基本的考え方
1.利益相反問題の取扱いが必要とされる背景
大学は高等教育と学術研究を通じて従来から社会貢献を果たしてきましたが、近年、社会や人類が直面する課題が一層深刻となるに従い、大学の持つ知的資源に対する期待が高まっています。このため、大学に対しては、より短期的で直接的な社会貢献が求められるようになりました。
このような要請に応えて、大学がこれまで以上に産学連携活動を活発化していくと、企業等から大学や職員等にもたらされる金銭的利益が増大し、職員等の大学における責任と、企業等から得られる個人的な利益との間で衝突が生じることになります。また、大学自身が、保有する特許の実施料収入を得たり、大学発ベンチャーの株式を取得するなどの事態も生じるようになってきました。
つまり、産学連携活動を活発に行えば行うほど、利益相反問題は起こりやすいことになり、したがって、産学連携を推進していくためには、利益相反問題を取り扱うシステムとルールを構築することが避けて通ることのできない課題となります。
2.利益相反の定義
- ○利益相反とは、職員等が企業等から得る利益と大学における当該職員等の責任が両立し得ない状況をいいます。
- ○上記の定義のうち、「企業等から得る利益」が、「企業等に負っている責任」である場合には、責務相反になります。
したがって、責務相反は、主として職員が兼業する場合に起こります。広義の利益相反には、狭義の利益相反と責務相反が含まれます。 - ○利益相反は、個人である職員等についてのみならず、大学という組織についても起こり得ます。すなわち、大学という組織が得る利益と大学組織の社会的責任が相反する場合に組織としての利益相反が生じます。
利益相反とは、一般に「責任ある地位に就いている者の個人的な利益と当該責任との間に生じる衝突」と定義されています。(2002年11月文部科学省科学技術・学術審議会『利益相反ワーキング・グループ報告書』)
3.利益相反ポリシーの目的
利益相反は、企業等からもたらされる金銭的利益に関連して起こることが多いことから、利益相反ポリシーは、産学連携活動が主な対象となりますが、近年ではそれにとどまらず、研究活動の国際化、オープン化に伴う技術流出等の新たなリスクに対応するため、国際的に信頼性のある研究環境を構築することが求められており、利益相反マネジメントにおける情報開示を基本とした透明性の確保への取組が一層重要性を増してきました。利益相反ポリシーの目的は、利益相反問題を取り扱うシステムとルールを構築して、産学連携や国際連携に対する取組を萎縮させずに、大学に対する社会的信頼を確保することにあります。
4.利益相反問題の特性
利益相反とは、職員等が置かれている特別な状況のことを指しており、現実に大学の利益の損失や法令違反の問題に直結するわけではありません。問題は、そのような特別な状況に起因して、社会一般から実際に大学の利益が損なわれているかのように見えること(アピアランス)であり、そしてそれにもかかわらず、大学として何ら有効な手段を講じないために、大学に対する社会的信頼が損なわれることです。したがって、利益相反については、現実に大学の利益が損なわれる前に、事前の予防措置を講じることが重要な課題となってきます。
利益相反問題においては、大学にとってのアピランスが大切であり、事前の予防措置が重要です。そのためには利益相反問題のマネジメント・システムを構築することと、それを運用するための明瞭で簡素なルールを制定することが必要となります。
5.対象者の範囲
(1)利益相反ポリシーの対象者
- ア役員
- イ教員
- ウその他の職員
- エ大学院生やポスドクなどのうち、大学と雇用関係にある者
(例えば、リサーチアシスタントや研究員など)
(2)教育面における配慮の重要性
大学の主要な活動である教育面においても、利益相反問題が生じるおそれがあります。例えば学生・大学院生等の自由な意思に基づかない産学連携活動への参加や、特許等知的財産の保護のため、学生・大学院生等に長期間秘密保持を強制するなどといった事例が考えられます。これらの点については、産学連携活動等により、学生等の自由な活動を妨げることのないよう、日常の産学連携活動等において十分配慮しなければなりません。